研究紹介ニュースレター Vol.1(2016.4.1)

内視鏡手術支援ロボットについて

内視鏡手術は、 患者の腹部や胸部に開けられた小さな数個の穴から挿入したカメラ(内視鏡)と鉗子などの手術器具を用いて行う外科的処置であり、 開腹・開胸手術に比べ低侵襲で手術後の痛みが少なく、 美容面でも優位なため、急速に普及しています。 内視鏡手術は、手術野の観察を肉眼ではなく内視鏡を通してモニタに映し出された画像を見て行うことに最も大きな特徴があり、 内視鏡がいかに手術操作に適した視野を描出するかが、手術を安全かつ円滑に行えるかを左右する重要な要素になります。
内視鏡の操作は一般にカメラ助手(執刀医を補佐する外科医)が手で持って行います。 カメラ助手は、単に手術に必要な部位にカメラを向けるのではなく、 手術操作に応じた視野角度、遠近などを細かく調整する必要があり、 術者(執刀医)の指示 に従って内視鏡を操作することもありますが、 次々に行われる手術操作にあわせて視野を微調整するためには、 どうしてもカメラ助手自身が術者の意図をくみ 取って自己の判断で操作する必要があります。 そのためにカメラ助手にも執刀医同様の内視鏡手術に対する知識と熟練が求められます。 実際、カメラ助手が経験不足で的確な視野を術者に提供できず、手術の進行に支障をきたすこともあります。 また、単純に手術時間が長くなるだけでカメラ助手の疲労により安定した視野が提供できなくなります。 近年、医師不足が叫ばれていますが、高度な内視鏡手術に熟練した外科医も不足しています。 我々は、このような問題の解決策として、人間のカメラ助手に代わって内視鏡を把持位置決めする 「内視鏡手術支援ロボット」をハードウェア(メカニズム)と ソフトウェア(制御)の両面から研究開発しています。

ハードウェア:水圧駆動型アクチュエータを用いた内視鏡ロボット P-arm

内視鏡手術支援ロボットと産業用ロボットの要求仕様は大きく異なっています。 産業用ロボットは、人と隔離された環境下で、高出力、高速、高精度が重要視されますが、 内視鏡手術支援ロボットは、安全、清潔、使いやすさ、つまり「人との親和性」が最優先されます。 われわれが考える内視鏡手術支援ロボットの基本コンセプトは次の3つです。
  • (1)内視鏡手術支援ロボットが患者や医師に何らかの事情で危害を加えようとした場合、 機構的にその力を逃す仕組みを備えること(安全)。
  • (2)清潔野内で稼動する部分はディスポーザブル(1回限りの使用)とすること。 滅菌済みで医療機関に提供することで確実な清潔性を提供し、医療機関でのメンテナンスも不要になります(清潔)。
  • (3)小型軽量であること。 セットアップが行いやすいだけでなく、術者の邪魔にならないことも重要です(使いやすさ)。
  • 以上の基本コンセプトをもとに、われわれは内視鏡手術支援ロボットを6本の水圧駆動型リニアアクチュエータ からなるパラレルメカニズムで構成しました。 パラレルメカニズムは、万が一アクチュエータの一つが暴走した場合でも、 他のアクチュエータによりその動きを抑制する(誤差を平均化する)ことができ安全です。 また、患者の腹部などの限られた狭い空間で動作する場合、シリアルメカニズムに比べ、機構も小型、軽量、 シンプルにでき、セットアップも容易で術者の邪魔にもなりません。 アクチュエータは、チューブを通じて清潔野外に設置したポンプから送られる水量によって駆動量を制御する方式を採っており、 清潔野での漏電の可能性がなく安全・清潔で低コストです。 これらは医薬品を高精度で患者に投与する注射筒輸液ポンプの機構を応用したものです。 現在、臨床応用ならびに実用化に向けて、本ロボットを用いた動物実験を繰り返し実施しています。

    ソフトウェア:ゆらぎを用いた内視鏡自動位置決め制御

    近年、人間のカメラ助手の代わりに術者の意図をくみ、自律的に内視鏡を操作する内視鏡手術支援ロボット (内視鏡自動位置決めシステム)の研究が国内外で盛んに行われています。 しかしながら、一般に、 カメラ助手の内視鏡操作に関係すると予想されるパラメータは多岐にわたり、 これらのパラメータと内視鏡操作の間の因果律(制御構造)が不明瞭でモデル化が難しく、 人間の熟練カメラ助手に匹敵するきめ細かな内視鏡操作をロボットで実現するまでには至っていません。 この問題を解決するために、われわれは、生体ゆらぎに学ぶ制御手法に着目しました。 生体システムは、分子から細胞、固体、さらには社会のレベルに至る階層を持つ、 超複雑・高次元でダイナミックなシステムです。 このようなシステムを従来の決定論的な手法で厳密に制御するのは、 制御すべきパラメータがあまりにも多くなるため現実的ではありません。 生体は、「ゆらぎ」を積極的に用いた巧妙な自己制御により、複雑な制御機構を省き、 厳密なモデル化をせずに、極めて少ないエネルギで秩序あるシステムを作り上げていることが近年明らかになってきました。 内視鏡自動位置決め問題は、モデル化が困難な「人間」が関与することで制御構造が不明瞭になる典型的な問題であり、 このような問題にこそ「ゆらぎ制御」が威力を発揮すると考えられます。

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研究紹介ニュースレター Vol.1

※ニュースレターという形で西川・岩本研究室の研究を随時紹介していきます。
[最終更新:2016.4.1]